研究内容

微小管内部に結合するペプチドの開発と微小管の機能化

細胞骨格の一種である微小管はチューブリンタンパク質からなる一般的に内径15 nmのチューブ状構造体であり、細胞機能に重要な役割を果たしています。微小管はモータータンパク質と組み合わせることで運動性を示すことから、運動性材料(アクティブマター)の部品としても注目されています。これまで微小管の「外部」表面への機能分子導入は数多く報告例がありますが、微小管の「内部」はほとんど注目されていませんでした。ごく近年に天然の微小管内部に結合するタンパク質が多数発見され、その存在意義に注目が集まっています。私達は、微小管の内部に結合するTau由来ペプチド(TP)を開発し、微小管内部を利用した機能開拓を世界に先駆けて行ってきました。TPは微小管関連タンパク質の一種であるTauを元に設計し、チューブリンと複合化後に微小管を形成させることで微小管内部に導入されることが明らかとなっています。これまでに、TPを連結することによって、タンパク質や金属ナノ粒子、環状ペプチドなどを微小管内部に導入することに成功し、内包物に応じて微小管の構造や機能が変化することを見出しています。また、TPは細胞内の微小管にも結合することが可能であり、光刺激によるTPの共有結合形成に基づく微小管安定化と細胞死誘導にも成功しています。近年では、TPを融合したタンパク質によって、微小管が2つ連なったダブレット構造や、途中で2つに分岐した構造、アスター(放射状集合)構造など、多様な微小管からなる超構造体が形成されることを見出しています。このように、ペプチドを用いた分子設計によって微小管の構造や機能を内部から制御する新しい設計指針を打ち出しています。将来的に微小管を用いたナノデバイスや分子ロボットなどのマテリアル開発への応用や、細胞内微小管の構造・機能制御による細胞操作などの展開が期待されます。


発表論文

  • Chem. Eur. J., 24, 14958-14967 (2018). Inside Cover, Hot Paper
  • ACS Omega, 4, 11245-11250 (2019).
  • Chem. Commun., 55, 9072-9075 (2019). Front Cover
  • Polym. J., 52, 1143-1151 (2020). 
  • Nano Lett., 20, 5251-5258 (2020).
  • Bull. Chem. Soc. Jpn., 94, 2100-2112 (2021) (Account). Inside Cover
  • Chem. Lett., 51, 348-351 (2022).
  • Chem. Commun., 58, 9190-9193 (2022). Outside Front Cover
  • Sci. Adv., 8, eabq3817 (2022).
  • ChemBioChem, 24, e202200782 (2023). ChemBioTalents 2022/23
  • PLoS ONE, 18, e0286421 (2023).
  • Bull. Chem. Soc. Jpn., 96, 1082-1087 (2023). BCSJ Award, Front Cover